一般民事関係 実例7 架空請求事件

東京地裁平13(ワ)第20897号損害賠償請求事件、平14.7.26民事第35部判決、一部認容・確定、
判例タイムズ1164号183頁〜187頁

事案の要旨

 架空の債権譲渡・通知を発して譲受人に不当な債権取立訴訟を提起させた者は、上記取立訴訟の被告との関係において不法行為責任を免れず、上記被告の上記取立訴訟の応訴に要した弁護士費用の相当額を賠償する責任があるとされた事例

事案の詳細

 Xは、平成7年3月ころ、訴外A会社から電気設備工事を請負代金4,490万円で請負ったが、上記工事をYに4,350万円で下請けさせたところ、Yは右工事をさらにB会社に下請けさせた。
本件電気設備工事において追加工事が必要となったため、B会社はYを通じてXに追加工事費用負担の申し入れをした。Xは、Yに対して追加工事代金の一部である金270万円を支払うことで合意した。
 平成7年8月31日、XはYに金270万を支払い、XY間においては本件工事についての清算は全て終了した。しかし、平成7年10月ころ、Bから執拗に更なる追加工事代金を請求されたYは、Bからの請求の煩わしさから逃げるため、YはYのXに対する架空の工事代金債権1,253万4,755円をBに譲渡するとともに、Xに対して債権譲渡通知を送付した。
 Bは、平成9年3月、Xに対し、右譲受債権の支払を求める別件訴訟を提起したため、Xは、林哲郎弁護士に委任して応訴したところ、1、2審で勝訴し,右勝訴判決が確定した。
 そこで、Xは、Yに対し、架空の工事代金債権をBに譲渡して債権譲渡通知をし、Bをして別件訴訟を提起させたことが不法行為に該当すると主張し、林哲郎弁護士に支払った弁護士費用239万5,000円の賠償を請求した。

解説

 不法な訴えに応訴する等のために弁護士に事件を委任し、弁護士費用を負担した場合、上記弁護士費用を損害として賠償請求することができるかどうかについては、古くから判例・学説上見解が分かれていました。
 大審院時代の判例では、相手方の不法な、訴えの提起、告訴、仮処分、仮差押等によって引き起こされた訴訟手続等に関連して要した場合にはこれを肯定するが(大判昭16.9.30民集20巻20号1243頁,大判昭18.1L2民集22巻23号1179頁など)、被害者として訴訟を提起するために要したものである場合については、肯定するものと否定するものがありました。
 他方、学説では、相手方の行為の違法性が強度の場合にのみ肯定するもの、先行する不法行為の加害者において任意に賠償しないためやむなく訴訟を提起した場合には、肯定することができるとするものなどに分かれていました(四宮和夫・不法行為536頁参照)。
 しかし、最高裁は、自己の権利を擁護するため、訴えを提起することを余儀なくされたような場合には、弁護士費用は相当額の範囲内で不法行為と相当因果関係に立つとして、肯定する見解を持っており(最一小判昭和44.2.27民集23巻2号441頁,判タ232号276頁)、学説でも、判例を支持するものが多数です(幾代通・不法行為法306頁,田山輝明・不法行為法[補訂版]105頁など)。
 本件は、不当訴訟に応訴して弁護士費用を要した場合につき、その不当訴訟の原因を作出した者の不法行為責任を肯認し、上記弁護士費用の賠償請求を認めたもので、大変興味深い判例です。
 私(林弁護士)は、この不当な債権取立訴訟に応訴して第一審・二審で勝訴した後、架空の債権譲渡・通知を発して譲受人に不当な債権取立訴訟を提起させた者に対して、応訴に要した弁護費用を依頼者のために請求し認められました。長期にわたり、大変苦労した思い出深い事件です。