高次脳機能障害の等級例 C,3級

(1)東京地裁八王子支部 平成14年7月4日判決、
   平成13年(ワ)第474号 高次脳機能障害 3級3号(自保ジャーナル)

  1. 事故の概要

     25歳タクシー運転手兼アルバイトの原告は平成9年12月19日午後11時10分頃、世田谷区の交差点で大型自動2輪車を運転中、被告会社の乗用車と衝突し、脳挫傷等から高次脳機能障害による易怒性の影響が大きい3級3号、労働能力喪失率100%、後遺症慰謝料1,900万円を認めた。

  2. 高次脳機能障害の症状

    1.  原告は、食事、用便の始末、洗面、着衣、入浴等の日常生活上の行為については自立して行うことができ、一人で外出することもできるが、高次脳機能障害に基く記憶・記銘力低下などの知能低下や易怒性等の精神面における障害があり、運動機能の面でも、軽度右肩麻痺の障害が、言語面では構音障害が、脳神経の面では味覚障害、臭覚脱出などの障害があるため、原告が本件事故前に従事していたタクシー運転手やウエイターなどの、運転動作、接客及び金銭の計算が必要な業務に就くことはできず、また、印刷技術の職業訓練を受ける予定でE学院に入所したものの、同所での職業訓練においても、意欲低下、物忘れ、情緒面の不安定により作業の習熟が進まず、職業適性検査の言語や書記などの能力も平均以下で、その上、高次脳機能障害に基く易怒性のために、他の入所者を怒ったり、殴ったりしたため、約1年間で同所を退所せざるを得ず、現時点においても、職業訓練の目途がまったく立っていないことを考慮すれば、原告については、高次脳機能障害等の後遺障害により、終身労務に服することができないものとして、労働能力の喪失率を100%と判断するのが相当である。

    2.  原告は、平成9年12月19日の本件事故後、直ちにF病院高度救命救急センターに搬入されたが、搬入時の原告の意識レベルは3−3−9度方式におけるIII−200(痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる程度で、刺激しても覚醒しない。)であり、その後も意識障害は持続し、平成10年1月6日にF病院からG病院に転院した際には、3−3−9度方式におけるII−20(大きな声又は身体を揺さぶることにより開眼し、覚醒するが、刺激をやめると眠り込む。)であった。

    3.  原告は、G病院に転院した後は、意識障害は改善されたものの、記憶・記銘力低下などの知能低下や易興奮性、易怒性等の高次脳機能障害に基く症状が残り、これらの症状から、他人との良好な意思疎通を保つことが困難な状態が続いた。

    4.  原告は、病院を退院し、自宅から病院に通院するようになったころには、原告は、食事、用便の始末、洗面、着衣、入浴等の日常生活上の行為については自立して行うことができるが、火についての危険性が十分に認識できず、始末が十分にできないことなどから、原告を長い時間一人で自宅に残しておくことは危険な状態である。そして、原告は、動作の面では、付添者なしで外出して戻ってくることができるが、高次脳機能障害に基く易興奮性及び易怒性の障害が原因で、ささいなことで他人と険悪な状態となり易く、一人で外出をしたときに、他人と喧嘩をして逆に殴られて怪我をして帰ってきたことがあり、また、他人と喧嘩をして警察の世話になったことも2回くらいある。

    5.  原告は現在精神科のOクリニックやP病院の精神科に通院し、うつ病の薬の処方を受けている。

  3. 介護料について

    1. 原告は、兄と妹の3人兄弟であり、現在、母、兄夫婦及びその子供、父親の両親と同居している。原告の父は、15年くらい前から母と別居して栃木県で一人暮らしをしており、経済的に自分の生活をするために手一杯であるため、母が、N生命保険に勤務して、一家の生活を支えている。

    2.  妹は、本件事故後、平成11年10月頃までは、原告や母らと同居して、入院中及び退院後の原告の世話をしていたが、平成11年10月に、ささいなことで激昂した原告から、顔を多数回にわたってひどく殴られたり、首を絞められて口をふさがれるなどの暴行を受けた上、包丁で脅かされるという事件が起こったことから、原告と別居し、それ以降、原告に対する恐怖心から、原告と会うことができなくなってしまった。

    3.  原告の兄も妻は、平成12年7月に結婚してから、原告宅で同居するようになり、同居の開始後平成13年3月頃までは、原告の世話をしていたが、平成13年3月頃に、ささいなことに怒った原告から「消すぞ。」というような言葉で脅されたことなどが原因で、原告の世話をすることがなくなった。

    4.  原告が病院に入院中は、看護婦等の病院の職員によって入院患者の介護の大部分が担われるのであり、また、母が病院において原告に付き添っていた期間も、一日中ではなく、午後3時から午後10時頃までの時間に限られていたのであるから、これらの点を考慮すれば、通常認められる近親者の付き添い費の全額が、本件事故と相当因果関係のある原告の入院中の付添費の損害とまでは認められないといわざるを得ない。したがって、これらの点を考慮すれば、本件事故日から症状固定日までの期間のうち、入院期間(前記第二の2前提となる事実(4)のとおり265日間)については、1日あたりの介護料(付添費)の損害を、原告主張の1日あたり6,000円の半額の、1日あたり3,000円として損害を算定するのが相当である。

    5.  本件事故日から症状固定日までの期間のうち、入院期間(前記第二の2前提となる事実(4)のとおり265日間)についても、火の始末が十分できないことなどから、原告を長い時間一人で自宅に残しておくことができず、また、原告は、動作の面では、付添者なしで外出して戻ってくることができるが、高次脳機能障害に基く易興奮性及び易怒性の障害が原因で、1人で外出すると、ささいなことで他人と喧嘩をし、怪我をしたり警察の世話になったりするのであるから、近親者もしくは親しい知人などによる、看視が必要であったと認められる。
       そして、原告は、一応日常生活は自立して営むことができるので、近親者などが付き添う場合には、常時付き添っていることまでの必要はなく、ある程度の間隔を置いて定期的に看視することで足りると考えられるが、自宅に原告がいる場合には、入院中と異なり、看護婦などの病院の職員による看視がないために、近親者などが原告の看視をする場合には、結局、近親者などが、常時自宅に待機していなければならないことになるから、通院期間中については、1日あたりの介護料(付添費)の損害を、1日あたり6,000円として損害を算定するのが相当というべきであり、これを前提とすれば、通院期間中の介護料(付添費)の損害は、291万円と認められる。

    6.  原告は、症状固定後も、火の始末が十分できないことや易興奮性及び易怒性の障害によって、ささいなことで他人と険悪な状態となり易い状態には変わりがなく、これらの障害は、高次脳機能障害に基くものであるから、原告の自発的な努力によって改善されることは困難であると考えられるので、原告については、症状固定後、生存期間中、近親者等による看視が必要であると認められる。
       そして、原告が妹に暴力を振るったことなどから、妹による原告の介護は期待できず、また、将来原告の兄夫婦が別居すると、原告の近親者、原告のことを介護することができるのは母のみとなるが、原告は、近親者以外にも、母の友人や原告自身の友人など、原告のことを思ってくれる人のいうことには比較的従い易いのであるから、このような原告の生活及び行動の看視については、必ずしも職業介護人による介護までは必要ないものというべきである。
       したがって、原告の、症状固定後の介護料(付添費)の損害について、1日あたり6,000円で、介護の期間を原告の症状固定時の年齢の27歳から平均余命の78歳までの51年間として、損害を算定するのが相当であり、これを前提とすれば、その損害は、下記の式のとおり、4,016万2,191円と認められる。