高次脳機能障害の等級例 A,1級

(1) 大阪地裁 平成11年7月27日判決、平成10年(ワ)7865号、 1級3号(判例体系CD-ROM)

  1. 事故の概要
      平成7年11月1日午後6時ごろ、京都府舞鶴市字大波下五三〇番地の二先路上で被告運転の自動二輪車が原告運転の足踏式自転車に後方から衝突して原告が負傷した。
  2. 傷害及び後遺障害
      原告は、本件事故により、頭部外傷、右前頭部脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、脳内出血、右前腕部開放骨折、右肘関節脱臼、右腓骨頭骨折、右膝前十 字靱帯損傷、内側側副靱帯損傷、右足関節脱臼、遷延性意識障害、症候性癲癇、高次脳機能障害の傷害を負い、平成九年二月一四日、症状固定し(但し、右上・下肢の機能障害については平成九年三月七日)、意識障害、精神症状、高次脳障害、右上・下肢の機能障害の後遺障害が残り、自動車損害賠償法施行令別表の後遺障害等級表一級三号に該当する旨の認定を受けた。
  3. 原告の症状
      手すりをもって数メートル歩行可能、用便自力排泄可能、食事自力摂取可能、日常会話一応正常。高次脳機能障害のため、強い精神症状、見当識障害が残り、不穏・錯乱状態があり、日常生活は全介助が必要な状態のままであった。次いで平成9年3月7日、右上・下肢の機能障害の面の症状も固定したが、歩行も室内のつたい歩きが日によってはできる日があるという程度であり、右上・下肢の機能障害と頭部外傷による高次脳機能障害のため、終日日常生活介助が必要な状態のままであった。
  4. 自宅増改築費用 
      前認定にかかる原告の状態にかんがみると、原告の日常生活を可能とするためには、一階の部屋を増築するとともに手すり等の設備をつける工事が必要であり、右改造をするために一四〇万円を要したと認められる(甲一九ないし二四、丙一、証人X)。右増改築が原告の家族自身の便にも資すると認めることはできず、割合的認定をすべきであるという被告ら及び補助参加人の主張は採用できない。
  5. 付添看護費
    1.  平成7年11月1日から同年12月3日まで親族による付添看護費として16万5千円(一日あたり5000円、33日間分)を要したと認められる(弁論の全趣旨)。右認定以上の金額が相当であることを認めるに足りる証拠はない。
    2.  平成7年12月4日から症状固定日である平成9年3月7日まで職業付添人及び親族による付添看護費として合計460万円(一日あたり1万円、460日間分)を要したと認められる(丙一、弁論の全趣旨)。右期間中に右認定以上の相当因果関係のある付添看護費を要したことを認めるに足りる証拠はない。なお、症状固定日後の付添看護費については将来の付添看護費の箇所で料断する。
  6. 将来の介護費
      原告は、症状固定時45歳であるから(甲六、七)、その後39年間は介護を要し、一日あたり平均して1万円の介護費を要するものと認められる。                          
  7. 入通院慰謝料         
      原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は360万円が相当である。
  8. 後遺障害慰謝料  2.500万円
      前記のとおり、原告の後遺障害は、後遺障害別等級表一級に相当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、2500万円が相当である。

(2) 横浜地裁 平成14年9月25日判決、平成14年(ワ)627号、1級3号(自保ジャーナル)

  1. 事故の概要
      平成11年10月24日、神奈川県藤沢市内道路で自転車を押して横断歩行中の原告(57歳主婦)が被告運転の大型自動二輪車に衝突され、脳挫傷などの障害を負い、高次脳機能障害で食事、排泄障害等の1級3号の後遺障害を残した。原告(57歳主婦の1級3号)は、食事や排泄は半介助、入浴は全介助を要する状態となり、記憶力や判断力が低下して性格も一変し、最近は介護にあたる原告夫を叩くなど凶暴性を増しており、その介護には相当のストレスを伴うようになっている。
  2. 介護料         54,378,065円
      今後原告の夫の高齢化に伴い平日の職業介護が相当程度必要になるとしても、なお当面は平日の家族介護が全く不可能とまではいえないこと、後記の家屋改造によりある程度の介護の負担の軽減が見込まれること等を勘案し、平均余命の28年間(ライプニッツ係数)を通じて日額1万円の介護料を認めるのが相当である
  3. 近親者付添費      2,590,000円
      裁判所は、原告の近親者付添費にういて「1日7,000円×治療期間370日」を認めた。
  4. 入院雑費       16,500円
  5. 傷害慰謝料      270万円
  6. 休業損害     3,500,808円
      年収345万3,500円(賃金センサス平成11年女子労働者学歴計全年齢平均)÷365日×370日
  7. 後遺症逸失利益  34,184,815円
      年収345万3,500円×9,8986(症状固定後の平均余命28年の2分の1である14年のライプニッツ係数×100%
  8. 後遺症慰謝料     2,800万円
  9. 将来雑費       1,787,772円
      リハビリパンツ及びガソリン代等月1万円×12か月×14.8981
  10. 将来介護ベット代   672,447円
      平均余命の28年間にわたり6年毎の買い替えが必要と認められる。33万1,500円×2.0285(24年まで6年毎の現価ライプニッツ係数の合計、0.7462÷0.5568+0.4155+0.3100)
  11. 将来車椅子代     318,236円
      平均余命の28年間にわたり5年毎の買い替えが必要と認められる。12万4,774円×2.5505(25年まで5年後との現価ライプニッツ係数の合計、0.7835÷0.6139+0.4810÷0.3768÷0.2953)
  12. 家屋改造費     8,053,500円
      浴室及びトイレの改造やスロープ工事の必要性が認められる。
  13. 車両改造費     2,141,300円
      原告は通院などに介護仕様車両を必要とし、既に支出した車両改造費に加え、平均余命の28年間にわたり6年毎の改造費支出が必要と認められる。  70万7,050円+70万7,050円×2.0285

(3) 大阪高裁 平成15年9月26日判決、平成14年(ネ)第2605号、 平成14年(ネ)第3228号

  1. 事故の概要
     10歳男子小学生のXは、平成11年9月5日、大阪府和泉市市内を自転車で直進中、Y運転の乗用車と衝突し、脳内血腫などで395日入院、平成12年6月30日に植物状態1級3号を残し、本人と親族が総額15億7,739万6,317円を求め訴えを提起した
  2. 介護費用
    1.  Xは、植物状態を僅かに脱却しつつあるものの、現在も意思疎通がはかれず、前記の重篤な後遺障害が残った寝たきりの状態が続いており、終生全面的な介護が必要と考えられること、Xが少しでも植物状態を脱却するためには、日々の介護において粘り強い刺激を与えることが重要であること、Xの介護はその生涯にわたって必要と認められることから、近親者が中心となってこれを行い続けることは到底不可能であり、介護費用を算定するに当っては、職業介護者を依頼することを原則とし、近親者が可能な範囲でその補助をすることを前提に考えるのが相当であること、Xらが原審で主張した介護(1日12時間の通いの看護婦1名、泊まり込みの家政婦1名、これに加えて入浴時などの為の訪問看護者を依頼し、定期的な医師の回診などを行う)を行うためには、行政による補助などを全く考慮しない場合には日額で合計4万数千円程度が必要と考えられる。
    2.  もっとも、医師により「現在は簡便なリフト式の介護用具等が開発されており、通常は1名の介護者、入浴や移動の必要に応じて少なくとももう1名の介護者を加えることによる介護が可能であり、看護婦によることが望ましい介護についても、医師等の指導により家人や家政婦が行うこともできる。」旨の意見書が作成されていることもまた認められ、これらの事情も併せ考慮すると、原審におけるXらの主張のように、常時2名(必要に応じて3名以上)の介護者があれば、より手厚い介護が可能であるとは考えられるものの、それだけの職業介護者が必要不可欠であると認められることはできないというべきである。
    3.  以上の事情を総合考慮すると、Xの介護については、それに伴う紙おむつなどの消耗品費や介護用器具などの将来の買い替え費用(Xらが消耗品費、介護用器具などとして別個の損害として主張しているもの)も含めて、日額1万5,000円を本件事故と相当因果関係にある損害として認めるのが相当である。 日額介護費用などを1万5,000円とし、ライプニッツ方式により年5%の割合による中間利息を控除して、Xの将来の介護費用などの現価を計算すると、次のとおり1億0,031万8,425円となる。
  3. 将来のタクシー等利用代金           100万円
  4. 介護器具など
    1.  現在までに購入したもの    405万2,426円
    2.  将来の買い替え分              0円
         医療器具や介護用品についても、いずれは買い替えが必要になると考えられるものの、中には日常的に使用しないものも含まれていて、その耐用年数の予測は困難であり、さらに、前記の消耗品費と同様に、Xが常時介護を要する状態であるために、これらの医療器具・介護用器具を要する一方で、そのような状態であるが故に支出を免れる生活費が存することも否定できない。 そこで、これらの費用についても、将来の介護費及び生活費として考慮することとし、独立の損害項目としてはこれを認定しないこととする。
  5. 家屋改造費            1,353万4,860円
  6. 後遺障害による逸失利益        6,893万円
  7. 慰謝料                  2,600万円
    1. 入院慰謝料           300万円
    2. 後遺障害慰謝料        2,300万円

(4) 東京高裁 平成15年7月29日判決、 平成14年(ネ)5039号

一審 千葉地裁八日市場支部 平成14年8月30日判決、 平成12年(ワ)48号判例時報1838号
  1. 事故の概要
      平成9年3月22日、千葉県東金市の路上で停止中だったA運転乗用自動車に、泥酔状態で走行していたY運転の普通自動車が追突した。被害車両に同乗していたX1は脳挫傷、右上腕骨骨折、全身打撲の障害を負い、後遺障害等級1級3号と認定された。
  2. 症状
    X1は、意識のない寝たきりの状態、いわゆる植物状態にある。本件事故直後から昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過、平成9年10月25日以降の三度の頭部MRIでは両側大脳の萎縮と脳幹の萎縮が認められるなどの画像所見から、びまん性軸索損傷と考えられ、後遺障害診断書によると、失外套状態にあるとされている。
  3. 植物状態の平均余命について
      平成4年自動車事故対策センターの寝たきり者のデータに基けば、事故時40歳代の事故後4年経過時点における、平均余命などは次のとおりである。
    1. 5年後の生存率は0.450、死亡率は0.475
    2. 10年後の生存率は0.226、死亡率は0.662
    3. 15年後の生存率は0.121、死亡率は0.767
    4. 20年後の生存率は0.065、死亡率は0.823
    5. 平均余命は6.3年である
      植物状態の平均余命については、平均余命より短い期間を認定した最高裁判決が2件ある(最高裁昭和63年6月17日判決、同平成6年11月24日判決)が、両判決とも、「平均余命は事実認定の問題であり、平均余命より短い期間を認定した原審の事実認定が違法とはいえない」としたものにすぎず、先例的な価値は乏しいとされる。下級審判決には平均余命より制限して認定するもののあるが、裁判実務の大勢は平均余命により認定する扱いである。X1が入院している九十九里病院の担当医師によれば、X1の状態は安定しており、生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染症、敗血症など)を併発したことはこれまでになく、九十九里病院ではこのような感染症の併発予防を行っており、仮にこのような感染症が併発しても、それに対する治療も行えるのである。したがって、X1の状態は安定しており、平均余命までの生存期間が認定されるべきである。
  4. 判決主文
    1. 被控訴人は、被控訴人X1に対し、金4,939万1,908円及びこれに対する平成9年3月22日から支払済みに至るまで年5分の金員を支払え。
    2. 控訴人は、被控訴人に対し、平成15年6月25日からその死亡又は被控訴人X1が満84歳に達するまでのいずれか早い方の時期に至るまでの間、一か月金25万円の金員を、毎月24日限り支払え。
    3. 被控訴人X1のその余の請求を棄却する。
  5. 入院雑費                         568,100円
  6. 近親者の付添看護費                 1,311,000円
  7. 車椅子代                         109,450円
  8. 介護費用(過去分)
    母、長女、二女、兄による介護  11,691,840円
  9. 禁治産宣告手続費用                  105,419円
  10. 休業損害                        4,520,256円
  11. 逸失利益                        40,542,225円
  12. 入院慰謝料                        3,200,000円
  13. 後遺障害慰謝料                    20,000,000円
  14. 5〜13一時金合計                   82,048,290円
      82,048,290円 ― 40,356,382(填補済み金額) = 41,691,908円
  15. 定期金賠償について(将来の介護費)
      身体障害に基く損害賠償訴訟においては、障害の予後、潜在的後遺症の有無・程度、将来の加療・介護の要否、不法行為の継続性など、損害自体あるいは不法行為自体に関する事情や賃金・物価水準、当事者の財産状態、生活費など損害額算定の基準となる事情について、将来を予測し、その予測に基く判断を基礎として賠償額を決定することにならざるをえない。しかし、判決確定後に生じた事実判決時の予測に反することがあるのは避けがたいので、確定判決で認められた賠償額を是正する方法がどうしても必要となる(基本法コンメンタール、新民事訴訟法1、平成8年109号、244頁)。
    そこで、新民事訴訟法117条では「定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え」を定めている。「定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え
    • 117条 1項
        口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
      117条 2項
        前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。
      新民事訴訟法117条が新設される前は、(1)事情変更への対処(2)損害賠償義務者の履行確保を理由として、定期金賠償方式は損害賠償請求権者の意思に反して採り得ないとするのが判例であった。新民事訴訟法117条によって(1)事情変更への対処は解決されたが、(2)損害賠償義務者の履行確保は手当てがなされなかったことから、定期金賠償方式による支払いを命ずることができるか否かについては議論がある。
     本件では、債務者が保険会社で経営状態が安定しているとはいい難いが、将来倒産等するとまでは予測ができないとして、(2)損害賠償義務者の履行確保ができることを将来の介護費として定期金賠償を認める根拠とした。 X1は、症状固定日の翌日から口頭弁論終結時の間、介護費用として少なくとも毎月25万円を要したことが認められるから(1日8,333円)、将来の介護費として毎月25万円の定期金賠償を認めた。